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民法改正について

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第1 はじめに

 民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が2017年5月26日に成立、
同年6月2日に公布され、2020年4月1日から施行されています。それまでの民法典は明治時代に制定されたもので、途中、当時のカタカナ表記がひらがなで現代的な表現に改められたり、内容の一部が改正されたこともありましたが、当時からの内容がほぼそのまま現在まで残り、今回の大改正までに120年以上もの長い年月が経過したことになります。
 その間に経済的、社会的に大きな変動があり、時代が大きく変わったことはいうま
でもありませんが、民法(財産法)の根底に流れる私的自治、契約自由、所有権絶対などの諸原則、基本思想は民法制定時と同じです。
 民法のような大きな法律を改正するには大変な作業を要します。社会の取引構造の根本に関する法律なので、膨大かつ詳細な調査の他、学者、専門家などの意見を集積しなければなりません。そういったことから、今までは、法改正に至らなくても、時代のそれぞれの変化に対応すべく、判例実務による法解釈や特別法の制定などで対応してきました。
 しかし、明治時代に制定された民法が、大量的取引、消費者取引そして電磁的取引が主流となる時代に相応しているとはいえず、現代に即した大改正がなされるべきではあったのです。そして、改正作業が行われる間も社会は絶えず変化します。今回の改正がこうした社会の要望に完全に答えたものだといえるかどうかはなお議論の余地があります。
 なお、民法というと、先の財産法の他、親族・相続法も含まれます。相続法の部分の改正法の成立は2018年7月で、2019年7月1日から施行されています。もう少し細かくいいますと、自筆証書遺言方式の緩和については同年1月13日から、配偶者居住権の制度については2020年4月1日から、自筆遺言の保管制度については2020年7月10日からそれぞれ施行されます。
 改正の主な点だけといってもかなり広範囲にわたりますので、今回、財産法では、消滅時効、法定利率、根保証、契約上の責任主義の強化等(売買、賃貸借)、相続法では、配偶者の相続権の強化、自筆遺言(方式の緩和と公的保管制度)、遺留分制度に限定し、できるだけコンパクトに解説しようと思います。

 

第2 債権の消滅時効

1 民事の債権では、権利を行使できるときから10年(民法第166条、第167条)と定められ、商事債権ではその期間が5年(商法第522条)となっていました。

2 民法改正後、民法上も商法上も、債権は、権利を行使できることを知ったときから5年、権利を行使できるときから10年(新第166条)となりました。他方、商事債権の消滅時効を定めた商法第522条は削除されました。

3 いわゆる短期消滅時効と呼ばれ、例えば、工事代金、飲食代金、弁護士料などの債権などは、より短い消滅時効期間が定められていました(第170条以下)。今回の改正でこれらの規定は削除され、一律に新第166条で2のように規定されることになりました。

 

第3 法定利率(第404条) 

利息は、利息制限法などの法律に触れない限りで、当事者間で決められますが、
決めていないときは、一律に年5分(%)でした。しかし、この利率も低金利が続く現代では高すぎます。そこで、改正民法では、年3分(%)とした他、利率を3年毎に見直す変動利率制を採用しました。

 

第4 根保証

1 根保証、簡単にいうと限度額を定めない保証ということですが、従来、法律による保護の対象は貸金(主に金融制度)債務の根保証のみでしたが、その他の債務の根保証にまで保護を拡大しました。

2 個人(法人ではなく)の根保証については、根保証人がたとえば口や耳に障がいがあるなど一定の場合、公正証書の作成を義務づけました(新法第465条の7)。

3 保証人の責任等(新設の第465条の2) 
(1) 根保証契約であって保証人が法人でない(個人根保証契約)場合、保証人は、主債務の元本、利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのもの、その保証債務について約定された違約金または損害賠償の額について、その全部に係る「極度額」を限度として責任を負うことになります。
(2) 個人根保証契約は、前項による「極度額」を定めなければその効力を生じないこととなります。
(3) 第446条第2項(契約書面)、第3項(契約の電磁的記録の規定)は、第1項の極度額の定めについて準用されます。個人の根保証人の責任が重くなりすぎないための規定で、保証期間が長くなる賃貸借契約においても、個人根保証契約に関する前記規定が適用されます。つまり、賃貸借契約の保証にも「極度額」の定めが必要となります。

 

第5 契約上の責任主義の強化(瑕疵担保責任規定の見直し等―総論)

1 瑕疵担保責任の法的性質
(1)  法的性質をめぐる論争
旧規定下では、法定責任説と債務不履行説の争いがありました。
少し難しい話になりますが、法定責任説においては、責任の対象は特定物に限り、損害賠償の範囲は信頼利益に限るとされました。債務不履行説においては、責任の対象は特定物に限らず、損害賠償の範囲は履行利益に及ぶとされました。実務上は法定責任説が基本であったようで、学説上は債務不履行説の方が有力だったようです。
信頼利益の賠償とは何かと申しますと、有効でない契約が有効に成立したと誤信することで生じた損害(例えば、契約を結ぶために目的地までかかった交通費など)の賠償だと説明されています。履行利益の賠償とは、契約が完全に履行されなかった場合に債権者が受ける損害の賠償ということです。そして、履行利益の賠償の方が信頼利益の賠償よりも一般的には重く、「もしこれが壊れていなかったら」と仮定した場合の損害は事実上の損害で履行利益だということになります。少しわかりにくい説明で申し訳ないと思います。
どうして法定責任説なのかといえば、瑕疵担保責任では必ずしも債務者に落ち度があるとは限りません。落ち度のない売主に履行利益まで賠償させるのは気の毒であるから、損害賠償の範囲は信頼利益に限るのだということです。
また、特定物、例えば中古品の売買で、「もし瑕疵がなかったら」と履行利益を追求したところで、瑕疵のない中古品などなかなかあり得ませんから、特定物の売買を前提とした瑕疵担保責任で履行利益を考えることは理論上も難しいということになります。
(2) 改正法下では
契約上の責任という観点から売主の責任を重く考え、瑕疵担保責任イコール債務不履行責任であるという位置づけにしました。
(3) 以下、主な契約について、改正後の条文を見ていきます。

 

第6 各論-売買契約

1 第560条 売主の買主に対する登記、登録その他売買の目的である権利移転につき対抗要件を備えさせる義務

2 第561条 他人の権利を売買の目的とした場合の売主の義務すなわち他人から権利を取得して買主に移転させる義務

3 第562条 (特定物か不特定物かを問わず)引き渡された目的物が種類、品質又は数量が契約の内容に適合しない場合、目的物の修補、代替物の引渡しまたは不足物の引渡しによる履行の追完請求権
   但し、前項の不適合が買主の責任によるときは履行の追完ができません。

4 第563条 引き渡された目的物が種類、品質または数量につき契約の内容に 適合しない場合の買主の代金減額請求権(新設)(買主に責任がないとき)
(1) 原則 相当の期間を定めて履行の追完を催告することが前提となります。
(2) 例外(催告不要の場合)
① 履行の追完が不能であるとき
② 売主が履行の追完を明確に拒絶したとき
③ 契約の性質や当事者の意思表示によって、特定の日時または一定の期間内に履行しなければ契約目的を達成できない場合において履行の追完がされずにその時期が経過したとき
④ 買主が履行の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないとき

5 第564条 第562、563条の場合、第415条に基づく損害賠償請求、第541
条及び第542条に基づく契約の解除ができます。

6 第565条 第562条~第564条は、売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しない場合(第561条の場合)に準用されます。

7 第566条 種類または品質につき契約の目的に適合しない目的物を引き渡した場合、買主は不適合を知った時から1年以内に売主に通知しなければ、履行追完請求、代金減額請求、損害賠償請求及び契約の解除ができません(除斥期間)。
   但し、売主が引渡時不適合を知りまたは重過失によって知らなかったときは例外となります。

8 第567条 目的物の滅失等について危険の移転
(1) 売買の目的である特定物を引き渡した場合、引渡し後に当事者の責めに帰することができない事由によって滅失または損傷した場合、買主はその滅失または破損を理由として履行の追完、代金減額、損害賠償請求及び契約の解除ができません。買主は代金の支払義務を免れません。こうした場合、目的物の滅失、破損によるリスク(危険)を売主、買主のどちらが負担するのかということを「危険負担」といいます。
(2) 売主が契約の内容に適合する目的物をもってその引渡しの履行を提供したが、買主が履行を受けることを拒みまたは受けることができない場合、履行の提供後に当事者の責めに帰することができない事由によって滅失または損傷した場合、前項と同様、買主が(悪いのですから)危険を負担することとなり、代金の支払義務を免れません。

9 第568条 競売における担保責任等
   第541条、第542条及び第563条の規定により、債務者に対し、契約の解除または代金減額請求ができます。
   これらの規定は、目的物の種類または品質に関する不適合については適用され
ません。

10 第570条 抵当権がある物件の買主による費用償還請求
   買い受けた不動産に契約の内容に適合しない先取特権、質権または抵当権が存していた場合、買主が費用を支出して不動産の所有権を保存したとき、売主に対して費用償還を請求できます。
旧規定では、担保権の実行によって買主が所有権を失った場合の解除権や損害賠償請求権を定めていましたが、契約責任説の観点からは、一般規定すなわち第415条、第541条、第542条に基づいて契約解除や損害賠償請求ができることになります。

11 第572条 担保責任を負わない旨の特約(旧規定とあまり変わらず)
   当事者が第562条第1項本文または第565条に規定する場合における担保責任を負わない旨の特約をした場合です。
   ただし、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定しまたは第三者に譲り渡した権利について免責はありません。

12 次に請負契約について、改正後の条文を見ていきます。
(1) 旧規定では、仕事の完成前は債務不履行責任、完成後は担保責任(実務は法定責任説)を問うことになっていましたが、改正後は、仕事の完成の前後を問わず、債務不履行責任、契約不適合責任が問われることになりました。
(2) 担保責任に関する旧第634条、635条に相当する条文がなくなり、代わりに、売買契約に関する新規定第559条が請負契約を含む有償契約に包括的に準用される結果、売買の担保責任に関する新規定(第562条、第563条、第564条・第415条・第541条等)によって規律されることになりました。

 

第7 各論-賃貸借契約

1 第604条 賃貸借の存続期間
   旧規定604条では「20年を超えることができな」かったのですが「50年」となりました。これは、例えば、再生可能エネルギー設置を目的とする場合のように、工事期間を含み長期的なプロジェクトの存続の必要性に備えた期間の伸長規定だと考えられます。
   但し、建物の所有を目的とする土地の賃借権や地上権、建物の賃貸借には借地借家法が適用されますので、改正民法604条の影響は受けません。

2 第605条 不動産の対抗力
   従来の判例実務を取り入れ、賃貸借の登記をしたときは「不動産について物権を取得した者その他第三者に対抗できる」と表現されました。

3 第605条の2 不動産の賃貸人たる地位の移転(新設規定)
   従来の判例実務を容れて明文化したものです。

4 第605条、借地借家法10条または31条その他の法令による賃貸借の対抗要件を備えた場合、その不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人たる地位もその譲受人に移転します。
不動産の譲渡人及び譲受人が賃貸人たる地位を譲渡人に留保しまたはその不動産を譲受人が譲渡人に貸す旨の合意をしたとき、賃貸人たる地位は移転しませんが、譲渡人と譲受人またはその承継人との間の賃貸借が修了したときは、譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は譲受人またはその承継人に移転することになります。
第1項及び第2項後段の規定による賃貸人の地位の移転は、賃借物である不動産につき所有権移転の登記をしなければ賃借人に対抗できません。
第1項及び第2項後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人またはその承継人に移転したときは、費用償還や敷金返還に係る債務は譲受人またはその承継人に承継されます。

5 第605条の3 合意による不動産の賃貸人たる地位の移転(新設規定)
従来の判例実務を容れて明文化したものです。
  賃貸人が所有不動産を譲渡する場合、賃借人の承諾を要せず、譲渡人と譲受人との合意によって、賃貸人の地位を移転できます。
  前条の第3、4項が準用されるので、新賃貸人の地位を賃借人に対抗するためには不動産につき登記が必要です。敷金返還などの債務は譲受人が承継します。

6 第605条の4 第605条の2第1項による対抗要件を備えた賃借人による妨害停止の請求等(新設規定)
従来の判例実務を容れて明文化したものです。
  不動産の占有を第三者が妨害しているとき、第三者に対する妨害の停止の請求ができます。第三者が占有しているとき、第三者に対する返還の請求ができます。
7 第607条の2 賃借人による修繕(新設規定)
   判例実務上、必要費の償還請求に関する第608条第1項から、賃借人に修繕権があると考えられていたのを明文化したものです。
   賃借物の修繕が必要である場合
イ 賃借人から賃貸人に修繕の必要性を通知しまたは賃貸人がそれを知ったにもかかかわらず、賃貸人が相当の期間必要な修繕をしないとき
ロ 急迫の事情があるとき

8 第611条 賃借物の一部滅失等による賃料の減額請求
イ 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用または収益できなくなった場合、賃借人の責めに帰することができない事由によるものである場合、使用、収益をすることができなくなった部分の割合に応じて減額請求ができます。
ロ 残存する部分のみでは賃借の目的を達することができないときは、契約の解除
ができます。

9 第613条 転貸の効果
従来の判例実務を容れて明文化したものです。
イ 賃貸物を転貸したときは、転借人は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借に基づく賃
借人の債務の範囲を限度として、賃貸人に対して転貸借に基づく債務を直接履行する義務を負います。
ロ 賃料の前払いをもって賃貸人に対抗できません。
ハ 賃借人が適法に転貸した場合、賃貸人は、賃借人との間の賃貸借を合意によ
って解除したことをもって転貸人に対抗できません。
ただし、解除当時、賃貸人が賃借人の債務不履行による解除権を有していたときは解除を転貸人に対抗できます。

10 第616条の2 賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了(新設規定)
従来の判例実務を容れて明文化したものです。
   賃借物の全部の滅失その他の事由により使用及び収益ができなくなった場合、賃貸借は終了します。

11 第621条 賃借人の原状回復義務(新設規定)
   賃借物を受け取った後に生じた損傷について、通常使用や収益によって生じた摩耗や経年変化を除き、賃貸借が終了したときに原状回復義務を負う
   但し、賃借人の責めに帰することができない事由による場合は例外
賃貸借契約で最後に大きな問題となるところは、賃貸借終了時における原状回復義務です。
  明文の規定はできたのですが、これは任意規定であり、建物賃貸借契約において、原状回復の範囲、履行方法などについてできるだけ明確に定める方が良いと思います。

12 第622条の2 敷金(新設規定)
従来の判例実務を容れて明文化したものです。
イ 敷金とは、賃料債務や賃貸借に基づいて生じる賃借人の賃貸人に対する金銭の支払いを目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭のことをいいます。
   以下の場合、賃貸人は、賃貸人に対し、既に発生している債務を控除した敷金の残額を返還しなければなりません。
① 賃貸借が終了し、かつ、賃借物の返還を受けたとき
② 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき
ロ 賃借人が、賃貸借に基づく金銭の支払いを目的とする債務を履行しないとき、賃貸人は敷金をその債務弁済に充当することができます。
    ただし、賃借人側から、敷金を不履行債務の弁済に充てることを請求できません。

13 大ざっぱな紹介でしたが、以上の契約条項においては、従来の判例実務を容れ、かなり細かい改正ができたという評価です。

 

第8 相続法における主な改正点

1 配偶者の相続権の強化
(1)  短期居住権(新民法1037~1041条)
相続開始時に居住していた建物を無償で使用できることなどです。
(2)  配偶者居住権(新民法1028~1036条)
遺贈・死因贈与契約または家庭裁判所の審判により、終身または必要な一定期間、無償で使用できます。
(3)  婚姻期間20年以上の配偶者への自宅土地、建物の遺贈、生前贈与
   相続開始時にその価額の持ち戻しを免除する意思があったものと推定 されます
(新法第903条4項)。

3 自筆遺言証書の方式の緩和
  従来は、法が定める方式に従い全部自筆しなければなりませんでしたが、タイプ打ち、代筆などでもかまわなくなりました(新法第968条4項)。

4 自筆遺言の公的保管制度
  従来、自筆遺言証書は、個人で保管しなければならず、破損など消失すると遺言の存在を証明できなくなるリスクがありました。
  これに対し、遺言公正証書だと、原本が公証人役場に10年間は保管されるので、その間、破損、消失した場合のリスクが回避されることになります。
  今回の改正では、最初に述べたような自筆遺言証書のリスクを回避するため、法務局で自筆遺言証書を保管、管理し、相続開始後にその情報を開示する制度が設けられました。
  詳しいことは、法務局に直接尋ねるか法務省のホームページにガイダンスがありますので、ご参照下さい。

5 遺留分制度の改正(改正民法1042~1049条)
(1)  従来の「遺留分減殺請求」は、各相続財産に対する遺留分権者の持分を確保するという考え方でした。
(2)  改正法では、持分ではなく(各相続財産が各共有になるという考えではなく)、遺留分に相当する価値を金銭で請求するという方法になりました。
(3)  計算方法 以下のとおりとなります。
【遺留分の計算式】
〔相続財産の評価額の総額+相続人に対する特別受益の評価額(原則10年以内の特別受益)+第三者に対する生前贈与の評価額(原則1年以内のもの)〕×遺留分権者の遺留分の割合=遺留分額
【遺留分侵害を求める計算式】
遺留分額-遺留分権者が受け取った特別受益の評価額

 

以上