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【高齢者・障害者のトラブル 5】成年後見制度の利用促進など

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成年後見制度の利用促進など

最初に述べた高齢化社会の進行に備えるべく、成年後見制度の利用の促進に関する法律が平成29年4月13日制定され、同年5月13日に施行されています。また、この法律制定に先立ち、同年3月24日、内閣府が、成年後見制度利用促進基本計画というものを閣議決定しています。

以上の法や基本計画が意図するところは何かということですが、これから高齢者が増えるからどんどん成年後見制度を促進してゆこうという単純なものではなく、成年後見制度の利用が本当に必要な人たちのために、それができ、各人の実情やニーズにそえるよう、全国各地域の相談窓口をもっと整備充実させよう、各地方公共団体の所轄部署、福祉、医療、法律などの専門家や関係者が連携できる仕組みをつくろう、高齢者、障がい者などの権利擁護支援体制を充実してゆこう、などというものです。但し、その内容は理念的、抽象的なものにとどまっていて、今後、これらの機関や関係者がどれだけ法や基本計画の意図を実現できるかにかかっていると思います。

利用促進法や利用促進基本計画の具体的な内容については、関係機関のホームページなどネット情報にアクセスして知ることができますので、興味がある方はご一読下さい。

もう一つ、今までの成年後見事務の中で未解決の事柄だったのが、①郵便物の問題、すなわち、本人宛ての郵便物が、本人の税金や財産などに関する重要な書類であっても本人不在の自宅に配達され、後見人の事務所に転送されることが難しかったこと(民法第860条の2が新設され、6か月という期間限定ですが、家庭裁判所を通じて後見人事務所への郵便物転送を嘱託することができるようになりました)、そして②死後事務の問題です。他にも未解決の問題はありますが、とりあえず、以上の問題については、平成28年10月、「成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」が施行され、一応の解決がされています。ここでは、死後事務の問題について少し触れたいと思います。

本人が死亡すると成年後見人の地位は消滅します。しかし実際、保管してきた本人の財産の資料(不動産の権利証や預貯金通帳など)を放置するわけにはゆきません。身近な相続人がいれば、それらの人たちに財産の資料を引き継いでもらい、火葬または埋葬、葬儀、法事などをやってもらえばよいのですが、本人に相続人がいないか、いても生前の何らかの事情で疎遠となり、火葬などを引き受けなかったら、(元)成年後見人はどうずればよいのでしょうか。それでも、成年後見人の方たちは、何とか工夫して切り抜け、死後事務を行い、終了させてきました。

新設された民法第873条の2によれば、必要がありかつ相続人に意思に反することが明らかでない場合、財産の保存に必要な行為や、家庭裁判所の許可を得てご遺体の火葬または埋葬に関する契約の締結(葬儀や法事に関する契約ではありません)ができるとされています。なお、火葬、埋葬については、墓地、埋葬等に関する法律(第3条)で、死後24時間を経過した後でなければならないとされており、大きな家庭裁判所では、死後24時間以内に火葬または埋葬の許可の審判を出すとのことだそうです。但し、裁判官が常駐しない地方の小さな支部や出張所では火葬、埋葬の許可の審判が遅れないか、少し心配ではあります。

このように、成年後見事務は、立法によって一歩前進したのですが、残された問題は他  にもあるというものの、立法で解決するとなるとなかなか難しい事情があり、さらなる議論が必要だと思われます。例えば、先ほどの問題で、なぜ葬儀や法事ができないのかといいますと、元々後見人の本来的な地位がなくなったところで行う死後事務は必要最小限でなければならないことと、宗教上の問題があり、背景や事情をよく知らない後見人が無宗教で葬儀を行ったり、勝手に特定宗教・宗派のお坊さんにお経をあげてもらうわけにはゆかないからだと思われます。

もう一つ、本人が入院し、手術が必要になったとき、病院が親族などにその同意を求めることがありますが、成年後見人は同意ができないといわれています。それはなぜでしょうか。理屈っぽく説明するとこうなります。医療行為の中で、注射、手術、抜歯などは、形式的には刑法の傷害罪(少し難しいことばですが、「の構成要件」)にあたります。ではなぜ傷害罪が成立して処罰されないかといいますと、資格を持った医師や歯科医が治療目的で行い、その必要性や内容などを本人にきちんと説明した上で本人が同意すれば(インフォームド・コンセントといいます)、違法でないからということになるからです。成年後見人は元々他人ですから、勝手に本人に対する傷害行為の同意ができないのです。

理屈はそうなのですが、実際、本人は判断能力を失っている(場合によっては植物人間状態)、連絡でき手術などの同意をお願いできる身近な親族もいないというケースは少なくないので、そういう場合には手術できないで放置するしかない、としたらもっと深刻、残酷なことになってしまいます。立法はある種の論理がなければなかなか成立できず、大変難しい問題だというにとどめておきます。